「退職したら、とりあえず失業保険をもらいながら起業準備をしよう」。そう考えていませんか? 実はこれ、私たち公務員には通用しない「民間企業の常識」なんです。
長年公務員として勤め上げたあなたが、ネットの情報を鵜呑みにして開業届の提出を遅らせると、失業給付がもらえないどころか、本来受けられるはずの数十万円規模の節税メリットまで逃してしまう可能性があります。
元会計実務担当であり、定年後の「稼ぎ方」を研究し尽くした私が、公務員特有の「失業保険の仕組み」と、損をしないための「開業届のベストな提出タイミング」を解説します。再雇用に頼らず、自分の力で生きていくための第一歩を、正しい知識で踏み出しましょう。
公務員に「失業保険」は存在しない?その衝撃の真実
まず、最も重要な誤解を解いておきましょう。多くの公務員が退職後に期待する「失業保険(雇用保険の基本手当)」ですが、残念ながら、定年まで勤め上げた正規の公務員は、原則として受給できません。

なぜ公務員はもらえないのか
理由は単純です。私たちは現役時代、「雇用保険料」を払っていないからです。給与明細を確認してみてください。共済組合の掛金は引かれていますが、雇用保険料の控除はないはずです。
民間企業の場合、雇用保険に入っているため、退職後にハローワークに行けば失業給付がもらえます。この時、「開業届を出して個人事業主になると、失業状態ではなくなるため給付が止まる」というルールがあります。だからこそ、世間のブログでは「開業届は失業保険をもらいきってから出せ!」と声高に叫ばれているのです。
しかし、そもそも受給資格がない私たち公務員にとって、この「待機期間」は無意味です。
「失業者の退職手当」という制度はあるが……
正確を期すために補足すると、公務員にも「失業者の退職手当」という制度自体は存在します。これは、私たちが受け取る「退職手当(いわゆる退職金)」が、雇用保険の失業給付額よりも少なかった場合に、その差額が支給される仕組みです。
ですが、私たちのように30年以上勤続して定年退職する場合、退職金は2,000万円前後になることが一般的です。失業給付の総額(多くても100万円程度)を遥かに上回るため、実質的にこの手当が支給されることはありません。
つまり、「失業保険をもらうために開業届を遅らせる」という戦略は、公務員には最初から通用しないのです。
ただし注意!再任用・再就職をする場合は話が変わる
ここで一つだけ例外があります。「定年後に再任用(再雇用)され、そこで雇用保険に加入した場合」です。
半年以上の勤務で受給資格が発生する可能性
もしあなたが、「とりあえず再任用で働いてみたけれど、やっぱり元部下に使われるのが屈辱的で半年で辞めた」というケースを想像してみてください。
再任用職員として6ヶ月以上勤務し、雇用保険に加入していた場合、退職後に失業給付を受け取れる可能性があります。このパターンに当てはまる場合に限り、以下の「民間企業の常識」が適用されます。
- ハローワークで求職の申し込みをする前に開業届を出してはいけない
- 「失業認定」を受けている期間中に開業すると、給付がストップする
もしあなたが「再任用は絶対に断固拒否する(私と同じですね)」という場合は、やはり失業保険のことは忘れて、「税金」の面から開業届のタイミングを考えるべきです。
元会計担当が教える!開業届を出す「税務上のベストタイミング」
失業保険の縛りがない私たち公務員にとって、開業届を出すタイミングを決めるのは「税金のメリット」です。結論から言うと、「事業を開始した日から1ヶ月以内(遅くとも2ヶ月以内)」が正解です。
青色申告特別控除(最大65万円)を逃すな
私が最も重視しているのがこれです。開業届とセットで「青色申告承認申請書」を提出することで、確定申告の際に最大65万円の控除を受けられます。
この「青色申告承認申請書」には提出期限という厳しいルールがあります。
- 原則: 事業開始日から2ヶ月以内(またはその年の3月15日まで)
この期限を1日でも過ぎると、その年は青色申告ができず、白色申告しか選べません。年収850万円クラスの私たちが、退職後にKindle出版やコンサル業で稼いだとして、65万円の控除があるかないかは、税額にして数万円〜十数万円の差になります。この権利をドブに捨てる必要はありません。
開業日はいつにする?「退職の翌日」である必要はない
「じゃあ、3月31日に退職して、4月1日に開業届を出さないといけないのか?」と焦る必要はありません。ここが公務員の特権、「自由」の見せ所です。
例えば、私は退職後の4月・5月は、平日の空いている道路でツーリング三昧の日々を送るつもりです。宮ヶ瀬湖や日光へ、混雑とは無縁の旅に出る。これが長年の夢でした。
この場合、事業開始(開業日)を「6月1日」に設定しても全く問題ありません。重要なのは、「開業日と決めた日から2ヶ月以内に申請書を出す」というルールを守ることです。
開業届を出す前にやっておくべき「経費」の裏技
ここで、元会計担当として一つアドバイスがあります。「開業日前の出費」についてです。
「6月に開業届を出すなら、4月に買ったパソコンは経費にならないのでは?」と心配される方がいますが、安心してください。これらは「開業費」として処理できます。
開業費に含まれるもの
- Kindle出版のために購入した参考書籍
- ブログ執筆用のパソコンやタブレット
- 打ち合わせに使ったカフェ代
- 事業構想を練るためのセミナー参加費
これらは、開業日が来る前に支払ったものでも、領収書さえあれば経費として計上可能です。さらにすごいのが、開業費は「好きなタイミングで、好きな金額を経費にできる(任意償却)」という特例があることです。
つまり、退職1年目で利益が出すぎてしまった時に「今年は開業費を全額経費にして利益を圧縮しよう」といった節税対策が使えるのです。これを知っているだけで、手元に残るお金が大きく変わります。
まとめ:公務員は「失業保険」より「青色申告」を狙え
今回の解説をまとめます。
- 定年退職する公務員は、原則として失業保険はもらえない。
- 「失業保険のために開業届を遅らせる」という民間向けの裏技は通用しない。
- 例外は「再任用で雇用保険に入り、その後退職した場合」のみ。
- 公務員にとって重要なのは、「開業日から2ヶ月以内の青色申告申請」。
- 開業日は退職直後でなくてもOK。準備期間の出費は「開業費」として領収書を保管しておく。
私は、再任用の席にしがみつくことなく、自分のスキルで稼ぐ道を選びました。退職金という強力なバックボーンがある私たちだからこそ、目先の失業給付(そもそも貰えませんが)に惑わされず、どっしりと構えて「事業主」としてのスタートを切るべきです。
まずは退職後の自由な時間を楽しみつつ、領収書だけはしっかり集めておく。そして、いざ事業を本格化させるタイミングで、堂々と開業届を出しましょう。それが、元公務員としての誇りある「第二の人生」の始め方です。


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