「退職金が入ったら、ずっと欲しかったあの高級時計を買おう」
定年を間近に控えた今、そんなふうに考えていませんか?長年の公務員生活、本当にお疲れ様でした。数千万円という退職金は、あなたの忍耐と努力の結晶です。自分へのご褒美に、形に残る高級品が欲しくなる気持ちは痛いほどわかります。
しかし、元会計実務担当として、そして同じく定年後の人生を模索する身として、あえて苦言を呈させてください。その選択、少し待ってください。
退職金で買うべきは、時を刻むだけの時計ではなく、これからの人生を彩る「体験」と「稼ぐ力」です。高級品は、組織の肩書きを失ったあなたの心を満たしてはくれません。むしろ、維持費と過去への執着を生む「負債」になりかねないのです。
本記事では、退職金の賢い使い道として、元公務員だからこそおすすめしたい「体験への投資リスト」と、会計的視点に基づいた「黄金の予算配分」を解説します。これを読めば、一時的な散財で終わらせず、退職金を「第二の人生の軍資金」に変える方法が見えてくるはずです。後悔のない選択のために、ぜひ最後までお付き合いください。
退職金で高級時計を買ってはいけない理由:元会計担当の視点
定年まであとわずか。長年、国や自治体のために滅私奉公してきた私たち公務員にとって、退職金はまさに「人生の通信簿」のような重みがあります。数千万円という額面を目にしたとき、多くの人が衝動的にこう思います。「自分へのご褒美に、高級時計でも買おうか」「憧れの高級車に乗り換えようか」。
その気持ち、痛いほどわかります。しかし、元会計実務担当として、そして一足先に組織の外の世界へ足を踏み入れようとしている人間として、断言させてください。退職金で高級時計などの「モノ」を買うのは、投資対効果(ROI)の観点から見て、決して賢明な選択ではありません。
なぜなら、高級時計が満たしてくれるのは「他者からの承認欲求」だけだからです。現役時代、役職や組織の看板があった頃は、身につけるモノがその人のステータスを補強してくれたかもしれません。しかし、組織を離れ、ただの「鈴木さん」になったとき、腕に巻かれた数百万円の時計は、あなたに何をもたらしてくれるでしょうか。
維持費(オーバーホール代)と、盗難や傷への不安。そして、「かつてはこれを買える立場だった」という過去への執着だけです。組織を辞めた後の私たちに必要なのは、過去の栄光を飾る装飾品ではなく、これからの人生を切り拓くための「武器」と「燃料」です。
会計の用語で言えば、高級時計は「減価償却資産」であり、手に入れた瞬間から価値が下がり始めます(一部の投機的モデルを除きますが、素人が手を出すべきではありません)。一方で、今回提案する「体験」への投資は、あなたの内面に蓄積され、新たなスキルや人脈、そして何より「生きがい」という無形の固定資産を生み出します。これらは減価しません。むしろ、時間が経つほどに人生を豊かにする「のれん代」として機能します。
人生を豊かにする「体験」投資リスト:50代からの賢いお金の使い方
では、具体的にどのような「体験」に退職金を投じるべきなのでしょうか。単なる浪費としての遊びではありません。ここでの定義は「将来の幸福度や、新たな収益につながる可能性のある活動」です。公務員という安定した、しかし閉鎖的な世界にいた私たちが、外の世界で自由に羽ばたくための投資先を厳選しました。
平日ツーリングという優越感への投資
まずおすすめしたいのが、趣味への本格的な投資、特に「平日を楽しむための環境整備」です。私の場合はバイク(ツーリング)ですが、これはゴルフでも釣りでも構いません。重要なのは「平日に動ける」という特権を最大化することです。
現役時代、私たちは土日の混雑した道路や観光地に耐えながら余暇を過ごしてきました。しかし、再雇用を拒否し、あるいは組織に縛られない生き方を選べば、世の中が働いている平日に、ガラガラの道路を走ることができます。
例えば、退職金の一部を使って、長距離移動でも疲れないツアラータイプのバイクに乗り換える、あるいはキャンプ用品を一式ハイスペックなもので揃える。これは単なる趣味の道具の購入ではありません。「自由な時間を最高品質で味わうための権利」への支払いです。
宮ヶ瀬湖や日光のいろは坂を、平日の午前中に独占して走る快感。これは高級時計を眺める時間の何倍ものドーパミンを脳内に分泌させます。また、こうした体験は心身のリフレッシュになるだけでなく、後述する「情報発信」のネタとしても極めて優秀なコンテンツになります。

「脳の若返り」を買う:リスキリングと学習
次に投資すべきは、新しい知識とスキルです。公務員生活で培った事務処理能力や調整能力は素晴らしいものですが、残念ながら組織の外では「そのままで」お金に変えることは難しいのが現実です。公務員特有の文書作成ルールや稟議の回し方は、民間や個人事業では通用しません。
そこで、退職金の一部を「リスキリング(学び直し)」に割り当てます。具体的には以下のような分野です。
- Webライティング・編集講座: 公務員の堅い文章を、読まれる文章に変換する技術。
- ITツール操作(WordPressなど): 自分でメディアを持つための技術。
- 動画編集: 旅の記録をYouTubeに残すための技術。
これらは、数十万円程度の投資で習得可能です。高級時計の消費税分にも満たない金額ですが、これらを身につけることで、あなたは「ただの定年退職者」から「デジタルの世界で発信できるクリエイター」へと進化できます。
特に、公務員は真面目で学習意欲が高い方が多いため、体系立てられたカリキュラムにお金を払うことは、非常に効率の良い投資となります。無料の情報で独学して時間を浪費するより、退職金という原資を使って「時間とノウハウ」を買うのです。これは、現役時代にはできなかった「自分の好奇心だけに従う勉強」であり、脳の老化を防ぐ最強のアンチエイジングでもあります。
健康寿命を延ばす:身体メンテナンスへの先回り投資
どれほど自由な時間とお金があっても、健康を損なっては全てが台無しです。退職金が入った直後にこそ、体のメンテナンスにまとまったお金をかけるべきです。
特に推奨したいのが「歯」と「筋力」への投資です。
現役時代、忙しさを理由に保険適用の銀歯で済ませていた箇所を、セラミックやインプラントなどの自費診療で徹底的に治す。これは食事の楽しみを死ぬ直前まで維持するための投資です。また、パーソナルトレーナーをつけて、自分に合った正しい筋力トレーニングの指導を受けることも重要です。我流の運動は怪我のもとですが、プロの指導があれば、60代からでも筋肉は裏切りません。
病気になってから支払う医療費は「マイナスをゼロに戻すためのコスト」ですが、元気なうちに支払うメンテナンス費は「プラスを持続させるための投資」です。会計的に見れば、将来発生しうる巨額の医療費(修繕費)を、今のつなぎ投資で予防保全する考え方です。
稼ぐ力に直結する「Kindle出版」という自己投資
ここで、私が最も推奨し、かつ自身も実践している「最強の自己投資」についてお話しします。それは、自分の経験や知識を本にして出版する「Kindle出版」への投資です。
公務員の「文書作成スキル」を資産に変える
私たち公務員は、何十年もの間、膨大な量の文書を作成してきました。起案書、報告書、答申、マニュアル。これらを作成する中で培った「正確に情報を伝え、論理を構成する力」は、実は非常に高いレベルにあります。ただ、その活かし方を知らないだけなのです。
退職金を活用して、Kindle出版のノウハウを学ぶ教材やコンサルティングを受ける、あるいは表紙デザインをプロに外注する。これは立派な事業投資です。
なぜKindleなのか。それは、Kindle本が「不動産」のような資産になるからです。一度出版すれば、Amazonという巨大なプラットフォームが24時間365日、あなたの代わりに本を売り続けてくれます。あなたがツーリングを楽しんでいる間も、寝ている間も、チャリンチャリンと印税が発生します。
高級時計は持っているだけでは1円も生み出しませんが、Kindle本は毎月現金を運んできます。これが「消費」と「投資」の決定的な違いです。
「先生」と呼ばれる立場を取り戻す
再雇用で働くと、かつての部下が上司になり、屈辱的な思いをすることがあります。しかし、本を出版し、専門分野(例えば入札手続きの知識、公務員処世術、あるいは趣味のバイクなど)の情報発信者になれば、読者からは「先生」「著者さん」としてリスペクトされます。
組織の肩書きではない、あなた個人の名前で感謝される経験。これこそが、定年後の承認欲求を満たし、精神的な安定をもたらす最高の「体験」です。退職金の一部を、この出版プロジェクトの軍資金(表紙代、編集ツール代など)に充てることは、プライドを守るための防衛費とも言えるでしょう。
退職金の配分比率:元会計担当が教える「黄金の3分割」
ここまで「体験に使え」と説いてきましたが、もちろん退職金の全額を使い切れと言っているわけではありません。大切なのはバランスです。元会計担当として推奨する、退職金の安全かつ攻めの配分比率「黄金の3分割」をご紹介します。
生活防衛資金(守りの資金):50%
退職金の半分は、手をつけてはいけません。これは老後の基礎生活費や、万が一の介護・医療に備えるための「聖域」です。元本保証のある定期預金や個人向け国債など、流動性が高くリスクの低い場所で管理します。ここを確保しているからこそ、残りの半分で挑戦ができるのです。
運用資金(増やす資金):30%
インフレリスクに対応するため、3割程度は投資信託(新NISAなど)で長期運用します。S&P500や全世界株式など、世界経済の成長に連動するインデックスファンドがベターです。ただし、一括投資はリスクが高いので、数年かけて分割で投入するか、毎月の分配金狙いではなくキャピタルゲイン(値上がり益)を基本に考えましょう。公務員は投資経験が少ない方が多いので、ここでも「銀行の窓口のおすすめ」には絶対に乗らないよう注意が必要です。
自己投資・体験資金(楽しむ資金):20%
残りの2割。例えば退職金が2,000万円なら400万円。これを「死ぬまでに使い切るお金」として設定します。この400万円こそが、今回のテーマである「体験」への投資枠です。
- バイクの買い替え:150万円
- 夫婦での豪華な旅行:100万円
- Kindle出版・PC環境・学習費:50万円
- 歯のメンテナンス・ジム:100万円
このように目的別に予算を組んでみてください。「老後が不安だから」と2,000万円全てを貯め込んでも、インフレで価値は目減りし、体力は衰え、結局何もできないまま終わるリスクがあります。「Die With Zero(ゼロで死ぬ)」というベストセラー本でも語られているように、思い出を作る能力は年齢と共に低下します。健康で感性が鋭い60歳前後の今しかできない体験に、この20%を躊躇なく投じてください。
モノより思い出、そして未来への種まきを
高級時計は、買った瞬間が喜びのピークです。しかし、体験への投資は、その後の人生に長く続く余韻と、新しい展開をもたらしてくれます。
平日ツーリングで見た絶景は、色褪せない記憶となります。
学び直して出版したKindle本は、毎月の印税と読者からの感謝を運んできます。
徹底的にメンテナンスした歯と体は、毎日の食事と活動を支えてくれます。
私たち公務員は、定年まで十分に組織に尽くしてきました。退職金は、その対価です。だからこそ、その大切なお金を、見栄えの良い「ガラクタ」に変えるのではなく、あなた自身を自由にし、新しい人生を豊かにするための「種まき」に使ってください。
「あの時、時計を買わずにこっちを選んでよかった」
10年後、再雇用のデスクでため息をつく元同僚を横目に、あなたが心からそう思える日が来ることを確信しています。まずは、あなたが「本当にやりたかったこと」をノートに書き出すことから始めてみませんか?それが、最高の投資への第一歩です。


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