「定年後はのんびりしたい」そう考えていたはずが、いざ自由な時間を得ると「今日一日、何をしようか」と途方に暮れてしまう。そんな声を聞くことが増えました。
一方で、スーパーに行けばお米や野菜の高騰が続き、将来の食への不安は募るばかり。そんな今、定年退職後の新たな選択肢として注目されているのが「農業」です。
「農業なんて大変そう」「素人にできるわけがない」と思われるかもしれません。しかし、60歳から80歳までの「期間限定」と割り切り、利益を追求しないスタイルならどうでしょうか?
年金という後ろ盾がある私たちだからこそできる、心身を健康にし、食卓を豊かにする「最強の働き方」。元公務員流の視点で、リスクを抑えながら豊かに暮らす、新しい農業ライフの始め方を提案します。
定年退職後こそ「農業」が最強の選択肢である理由
長年勤め上げた会社や組織を離れ、自由な時間が手に入る定年退職後。「これからの人生をどう過ごすか」と考えたとき、多くの人が趣味や旅行、あるいは再雇用といった選択肢を思い浮かべるでしょう。しかし、ここで私が強くおすすめしたいのが「農業」です。
現役時代にパソコンに向かい、書類と格闘してきた私たちにとって、土に触れ、作物を育てる生活は対極にあるものかもしれません。しかし、だからこそ、定年後の生活を豊かにし、現代社会が抱える課題さえも解決する可能性を秘めているのです。
令和の米騒動で露呈した「食の不安」と「農家の高齢化」
記憶に新しい「令和の米騒動」。スーパーの棚からお米が消え、価格が高騰した光景は、私たちに「食料はいつでも手に入るものではない」という事実を突きつけました。
この背景には、猛暑による品質低下だけでなく、構造的な問題として「農家の高齢化」と「担い手不足」があります。日本の農業を支えてきた人々の多くが高齢となり、離農が進んでいます。確かに、少子高齢化が進む日本において、若者が永続的に農業に従事し、大規模な経営を行うことは重要です。しかし、それだけでは急激な農家減少のスピードには追いつけません。
そこで提案したいのが、私たち定年退職世代の活用です。
「60歳から80歳まで」の期間限定という新しい働き方
農業というと「先祖代々の土地を守り、死ぬまで続けるもの」という重いイメージがあるかもしれません。しかし、発想を変えてみましょう。
「60歳で定年し、体が元気に動く80歳までの20年間だけ、期間限定で農業に従事する」
このように割り切ることで、農業へのハードルはぐっと下がります。現代の60代は驚くほど若く、活力に溢れています。70代、80代になっても現役で体を動かしている方は珍しくありません。この「まだ動ける20年間」の労働力を農業に向けることができれば、日本の農業労働力不足を補う大きな力となります。
「一生の仕事」として背負い込むのではなく、人生の第2ステージにおける「プロジェクト」として捉えるのです。これなら、後継者問題に悩む必要もありません。自分たちが元気な間だけ、日本の農地を守り、食料生産の一翼を担う。それは、非常に理にかなった社会貢献の形と言えるでしょう。
利益を追求しないからこそ成功する「自給自足モデル」
若い世代が就農をためらう最大の理由は「稼げないから」です。生活費を稼ぎ、子供を育て、将来の貯蓄をするためには、農業はあまりにも天候リスクが高く、収益性が低いのが現実です。
しかし、定年退職後の私たちは違います。
公的年金や、現役時代に築いた「自分年金」などの蓄えがあれば、農業で生活費のすべてを稼ぎ出す必要はありません。
「儲けなくていい」
「食べていける分だけ作ればいい」
この強みは絶大です。市場価格が暴落しようが、形が悪くて売れなかろうが、自分と家族が食べる分さえ確保できれば、それは「成功」なのです。利益を追求するプレッシャーから解放された農業は、苦役ではなく、純粋な喜びとなります。
若い人には真似できない、経済的な基盤があるからこそ可能な「贅沢な農業」。これこそが、定年後の特権なのです。
農業がもたらす「健康」と「生きがい」の黄金サイクル
定年後に急激に老け込んでしまう人の共通点は「やることがない」「誰とも話さない」「体を動かさない」ことです。農業は、これらすべての問題を一挙に解決してくれます。
ジム通いより効果的?自然の中での労働が体を蘇らせる
健康のために高い会費を払ってジムに通うのも良いですが、畑仕事はそれ以上に実践的なトレーニングになります。
土を耕す、草をむしる、収穫物を運ぶ。これらの動作は全身の筋肉を使います。しかも、閉ざされた室内ではなく、太陽の光を浴びながらの作業です。日光を浴びることで生成されるビタミンDは骨を強くし、免疫力を高める効果も期待できます。
「今日はここまで耕そう」という目標があるため、無理なく運動を継続できるのもメリットです。私の知人にも、退職後に畑を始めてから、現役時代よりも血色が良くなり、足腰が丈夫になった人が何人もいます。
孤独とは無縁の生活!地域コミュニティとの自然な繋がり
会社を辞めると、驚くほど人と話す機会が減ります。しかし、畑に出れば状況は変わります。
「今年のトマトはどうですか?」
「害虫対策はどうしてますか?」
隣の畑の人や、地元の農家さんとの会話が自然に生まれます。
共通の話題があるため、現役時代の肩書きや職歴は関係ありません。ただの「野菜作り仲間」として、フラットな関係を築くことができます。収穫した野菜をお裾分けしたり、逆に珍しい野菜をもらったり。こうした緩やかなコミュニティへの所属は、定年後の精神的な安定に大きく寄与します。
自分で育てた作物を食べる「究極の贅沢」と精神的充足
スーパーで買った野菜と、自分が種から育てた野菜。味の違いは歴然です。
採れたてのキュウリのみずみずしさ、完熟したトマトの濃厚な甘み。これらは、流通の過程で失われてしまうものであり、生産者だけが味わえる特権です。
「自分の食べるものを、自分の手で作る」という行為は、人間に深い安心感と自信を与えてくれます。経済がどうなろうと、物流が止まろうと、庭には食べるものがある。この究極の安心感は、何物にも代えがたい精神的な財産となるでしょう。
初心者が失敗しないための「スモールスタート」実践術
「よし、農業をやろう!」と意気込んで、いきなり広大な農地を購入するのはおすすめしません。特に私たちのような元会社員は、リスクを最小限に抑え、小さく始めることが成功の秘訣です。
土地はいきなり買わない!貸し農園と市民農園の活用法
まずは「市民農園」や「貸し農園(シェア畑)」から始めましょう。
これらは自治体や民間企業が運営しており、数千円から数万円程度の年間利用料で、手軽に畑を借りることができます。道具が完備されていたり、指導員がいる農園もあります。
ここで「土作りの基本」や「野菜の栽培サイクル」を学び、自分が本当に農業に向いているのか、どれくらいの規模なら管理できるのかをテストするのです。週末だけの「週末農業」から始めて、徐々に規模を拡大していくのが最も賢い方法です。
空き家バンクと農地付き物件を活用した「半農半X」
本格的に農業に取り組みたい場合は、地方自治体が運営する「空き家バンク」の活用も視野に入ります。
近年、過疎化が進む地域では、農地付きの空き家が驚くほど安価で提供されています。「農地法」の要件が緩和され、一定の条件を満たせば、空き家に付随する農地を世帯単位で取得しやすくなっている地域もあります。
住む場所(空き家)と働く場所(農地)をセットで手に入れ、都会と田舎の二拠点生活(デュアルライフ)を送るのも良いでしょう。平日はツーリングや読書(Kindle出版などへの挑戦も面白いかもしれません)を楽しみ、朝夕は畑仕事に精を出す。そんな「半農半X」のライフスタイルは、退職後の理想的な姿の一つです。
高額な農機具は「買わずに借りる」シェアリングの知恵
農業を始める際のネックとなるのが、トラクターや耕運機などの農機具代です。新品で購入すれば数百万単位の出費となります。
しかし、利益を目的としない私たちに、最新の大型機械は必要ありません。
地域の農機具レンタルサービスを利用したり、引退する農家から中古を譲り受けたりする方法があります。また、最近では農機具のシェアリングサービスも登場しています。
「所有」にこだわらず、「利用」に徹することで、初期投資を大幅に抑えることができます。これも、コスト意識の高い元会社員ならではの知恵と言えるでしょう。
元公務員的な視点で見る「リスク管理」と「持続可能性」
最後に、あえて少し厳しい現実的なお話をします。定年後の農業は素晴らしいものですが、無計画に進めれば怪我やトラブルの元になります。
無理は禁物!現役時代と違う「体の動かし方」
私たちの体は、悲しいかな、20代・30代の頃とは違います。
慣れないクワの操作や、重い肥料の運搬は、腰痛や関節痛の原因になります。また、夏の炎天下での作業は熱中症のリスクと隣り合わせです。
「頑張りすぎないこと」が、長く続けるための最大のコツです。
機械に頼れるところは頼る、真夏の昼間は作業をしない、雨の日は休む。自分なりのルールを決め、安全第一で作業を行いましょう。健康になるために始めた農業で体を壊しては本末転倒です。
儲けなくていい=経済的プレッシャーからの解放
繰り返しになりますが、私たち定年退職組の最大の武器は「儲けなくていい」ことです。
プロの農家さんは、生活のために、多少の無理をしてでも出荷しなければなりません。価格競争にもさらされます。しかし、私たちはそこから自由です。
もし収穫量が少なければ、買う量を増やせばいいだけのこと。もし失敗しても、来年また挑戦すればいい。この精神的な余裕こそが、農業を「労働」から「最高の趣味」へと昇華させてくれます。
日本の食料安全保障への「静かなる貢献」
小規模な農地を集約し、法人化して効率化を図る現在の大規模農業も、もちろん日本の食料生産には不可欠です。しかし、中山間地域など、大規模化が難しい農地も日本にはたくさんあります。
そうした小さな農地を、私たち定年退職者が「楽しみながら」守っていく。
一人ひとりの規模は小さくても、全国の退職者が動けば、それは無視できない大きな力となります。自分たちの食卓を豊かにしながら、結果として日本の農業を守り、美しい田園風景を次世代に残すことにも繋がるのです。
定年後の農業。それは、自分自身の健康と精神的な豊かさを手に入れつつ、静かに社会に貢献できる、まさに「一石三鳥」の生き方なのです。
さあ、まずはプランター一つ、市民農園の一区画から、土のある生活を始めてみませんか。


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