定年まであと2年。窓際でカレンダーを眺めながら、「このまま再雇用で残るべきか、きっぱり辞めるべきか」と悩んでいませんか? かつての部下が上司になり、給料は現役時代の半分以下。そんな環境でプライドをすり減らす毎日に、一抹の不安を感じている方は少なくありません。
私も58歳の時、同じ葛藤を抱えていました。「組織を離れたら、自分は何者でもなくなる」という恐怖。しかし、勇気を持って再雇用を拒否した今、私は現役時代には想像もできなかった「本当の自由」を手に入れています。平日の空いた道路でツーリングを楽しみ、公務員時代のスキルを活かした執筆活動で感謝される日々。
本記事では、元会計実務担当としての視点から、「退職翌年の税金のリアル」というシビアなお金の話と、公務員の事務スキルを「資産」に変える具体的な方法を包み隠さずお伝えします。組織の看板を捨て、一人の人間として輝くためのロードマップを、一緒に描いてみませんか?
「あなた」から「役職」を引くと、何が残りますか?
退職した翌日の朝、目が覚めた時のあの不思議な感覚を、私は今でも鮮明に覚えています。
現役時代、私たちは「〇〇課長」「〇〇補佐」という肩書きで呼ばれることに慣れすぎていました。電話に出れば「〇〇省の鈴木です」「〇〇県庁の鈴木です」(仮名です。)と名乗り、その組織の看板があるからこそ、相手は話を聞いてくれました。
長年、毎朝6時に鳴り響いていた目覚まし時計をセットせずに眠る背徳感。カーテンを開けた時に差し込む、平日朝10時の日差しの明るさ。「行かなければならない場所」がどこにもないという、心細さと表裏一体の解放感。

しかし、退職したその瞬間から、私たちはただの「鈴木誠」(仮名)になります。
組織の後ろ盾も、決裁権限も、部下もいない。ただの初老の男性。
その事実に直面した時、多くの同僚は恐怖を感じると言います。「自分は何者でもなくなってしまうのではないか」と。
私もそうでした。定年まであと2年という58歳の頃、再雇用を選択するか、完全に引退して新しい道を探すか、毎晩のように妻と話し合っていました。
「今の給料の半分以下で、かつての部下に頭を下げて働くなんて耐えられない」
「でも、公務員しか知らない人間に、外の世界で何ができるというのか」
この葛藤の中で私が選んだのは、「再雇用拒否」という道でした。そして今、私は断言できます。あの時の決断は間違っていなかったと。
この記事では、現役時代は会計実務を担当し、現在は組織に頼らずKindle出版などで収入を得ながら自由な時間を謳歌している私が、「再雇用を選ばない生き方」のリアルについて、包み隠さずお話しします。
再雇用制度の残酷な現実「昨日までの部下が、今日から上司」
給与明細を見て膝から崩れ落ちる前に
多くの公務員が定年後も再任用(再雇用)を選ぶ最大の理由は、やはり「安定」でしょう。60歳で定年を迎えても、年金が満額支給される65歳までの5年間は「無給」の期間が生まれてしまう。これを埋めるために、慣れ親しんだ職場に残る選択をするのは、ある意味で合理的です。
しかし、その「安定」の代償として支払うコストについて、具体的にシミュレーションしたことはあるでしょうか。
私が人事課の同期から聞いた話や、実際に再任用を選んだ先輩たちの姿を見て痛感したのは、「プライドの維持コスト」が想像以上に高いという現実です。
現役時代、年収800万円〜900万円を得ていたベテラン職員でも、再任用となれば年収は300万円台、良くて400万円弱まで激減します。仕事の内容は現役時代と変わらないか、あるいは補助的な業務に追いやられる。それなのに、責任だけは一人前に求められるケースも少なくありません。

組織図の逆転現象が心を蝕む
さらに辛いのが人間関係です。
4月1日の辞令交付式を境に、昨日まであなたが指導していた部下が、あなたの上司になります。「鈴木さん、この書類、ちょっと直しといてください」と、かつての部下から指示される日々。
相手も悪気があるわけではありません。むしろ、元上司であるあなたに気を使いながら指示を出すことに、猛烈なストレスを感じているはずです。お互いに気まずい空気の中で、コピー取りやデータ入力などの単純作業を淡々とこなす。
「俺は一体、何のためにここにいるんだ?」
そんな自問自答を繰り返しながら、定時が来るのをただ待つだけの5年間。それは、私たちが30年以上かけて築き上げてきた「公務員としての誇り」を、少しずつ、しかし確実に削り取っていく時間のように思えました。
私は58歳の時、ある先輩が給湯室で若手職員の陰口を言われているのを聞いてしまいました。「あの人、昔は凄かったらしいけど、今はただのお荷物ですよね」。その言葉が、私の背中を押しました。
「あんな風にはなりたくない。惜しまれるうちに、自分から去ろう」
そう決意したのです。
元会計担当が警告する「退職翌年の住民税」という時限爆弾
850万円の年収が招く「手取りの激減」
精神論だけでなく、お金の話もしっかりとしておきましょう。私は現役時代、長く会計や税務の担当をしていました。その経験から言えるのは、退職を考える際に最も警戒すべきは「退職翌年の住民税」と「社会保険料」です。
ご存知の通り、住民税は「前年の所得」に対して課税されます。つまり、現役バリバリで年収850万円だった年の所得に対する税金が、退職して無職(あるいは低収入)になった翌年に請求されるのです。
これがどれほどの破壊力か、想像できますか?
おおよその試算ですが、年収850万円の場合、翌年の住民税は50万円〜60万円近くになります。
現役時代は給与天引き(特別徴収)されていたので痛みを感じにくかったものが、退職後は自宅に納付書が届き、自分で支払う(普通徴収)ことになります。
6月に届く分厚い封筒。中に入っている納付書に記載された金額を見た時、多くの退職者が青ざめます。「収入がないのに、こんなに払うのか!」と。
国民健康保険料の上限張り付き
さらに追い打ちをかけるのが国民健康保険料です。これも前年の所得をベースに計算されるため、退職直後は最高ランクの保険料が請求される可能性が高いです。自治体にもよりますが、年間で80万円〜100万円近くになることも珍しくありません。
つまり、退職した翌年は、何もしていなくても住民税と健康保険料だけで150万円近くのお金が出ていく可能性があるのです。
再雇用を選んだ場合、給与が激減しているにもかかわらず、手取りからこの高額な税金が引かれます。結果として、月の手取りが10数万円、下手をすれば10万円を切るという事態さえ起こり得ます。「働けども働けども、生活が楽にならない」という感覚は、ここから来ます。
私がとった「防衛策」
私はこの仕組みを熟知していたので、在職中の58歳のうちから準備を始めました。
まず、退職金は「退職所得」として他の所得と分離して課税されるため、税制上非常に優遇されています。これはしっかりと受け取る。
問題は、翌年の住民税と社会保険料です。
私は、退職するタイミングを見計らい、可能な限り現役時代の貯蓄を「翌年の税金支払い用」として別口座にプールしました。これは「無くなるお金」ではなく、「すでに確定している借金」だと認識するためです。
また、社会保険については、国民健康保険に切り替えるのか、それとも在職中の健康保険(共済組合)の任意継続を選ぶのか、どちらが得かを徹底的にシミュレーションしました。多くの場合、扶養家族がいるなら任意継続の方が有利なケースが多いですが、これも事前の計算が不可欠です。
「退職したらパーッと旅行に行こう」なんて考えて退職金を使ってしまうと、翌年の6月に地獄を見ることになります。元会計担当としての私からの、最大のアドバイスです。
「公務員の文書作成スキル」は、外の世界では「魔法」になる
「お役所仕事」と卑下する必要はない
再雇用を拒否するということは、自分で稼ぐ手段を見つけるということです。
「でも、自分には特別なスキルなんてない」
そう思うかもしれません。私もそうでした。プログラミングができるわけでも、営業トークができるわけでもない。あるのは、膨大な決裁文書を作ってきた経験と、間違いのない事務処理能力だけ。
しかし、退職後に気づいたのです。この「正確で、論理的で、誰が読んでも誤解のない文章を書く能力」が、どれほど貴重なスキルであるかを。
世の中には、論理が破綻している文章や、何を伝えたいのか分からない文章があふれています。その中で、公務員が何十年も叩き込まれてきた「起案・理由・詳細・結論」という構成力は、圧倒的な強みになります。
Kindle出版という「自分年金」作り
私が目をつけたのは、AmazonのKindle出版(電子書籍)でした。
「本を書くなんて、作家先生のすることだ」と思うでしょう? 実は、Kindleは誰でも無料で出版でき、しかも在庫リスクがゼロです。
私が最初に書いたのは、現役時代の経験を活かした「公務員のための会計処理の基本」というニッチなテーマの本でした。同僚向けに作っていたマニュアルを、少し柔らかい表現に書き換えただけのものです。
これが、売れたのです。
爆発的なベストセラーではありません。しかし、毎月数千円、多い時で数万円の印税が入ってくるようになりました。一度書いて出版してしまえば、あとは寝ていてもツーリングに行っていても、Amazonが勝手に売ってくれます。これはまさに、自分で作る「年金」です。
堅苦しい文章を「信頼」に変える
公務員の文章は「堅い」と言われます。しかし、ネット上ではその「堅さ」が「信頼性」に変わります。
怪しい情報商材があふれる中で、「元公務員が、法令に基づいて正確に解説する」というスタンスは、非常に強いブランディングになります。
あなたのパソコンの中や、頭の中に眠っている「業務マニュアル」や「新人指導のメモ」はありませんか?
「クレーム対応の極意」「効率的なファイリング術」「地域住民との合意形成のコツ」。これらは全て、外の世界の誰かが求めているノウハウです。
組織の中では当たり前すぎて評価されなかったそのスキルが、一歩外に出れば「お金を払ってでも知りたい情報」に変わるのです。この事実に気づいた時、私は「公務員しか知らない自分への無力感」から完全に解放されました。
平日の宮ヶ瀬湖、空いた道路を独り占めする優越感
組織を離れた瞬間に手に入る「時間」という資産
再雇用を断り、自分で稼ぐ道を選んだ今の私の生活。それは一言で言えば「最高」です。
現役時代、私が唯一の趣味としていたのがバイクでのツーリングでした。しかし、土日の観光地はどこも渋滞。宮ヶ瀬湖や道志みち(国道413号)へ行っても、車の列に巻き込まれ、駐車場も満車。疲れて帰ってきて、翌日の仕事に備えて早めに寝る。それが当たり前でした。
しかし今は違います。
火曜日の朝、天気予報を見て「今日は晴れるな」と思えば、ふらりとバイクに跨ります。
通勤ラッシュが終わった時間の道路は、嘘のように空いています。
宮ヶ瀬湖畔の駐車場もガラガラ。静寂に包まれた湖面を眺めながら、缶コーヒーを飲む。聞こえるのは鳥のさえずりと、自分のバイクのエンジンの熱が冷めていく「チン、チン」という金属音だけ。
この瞬間、私は猛烈な優越感に浸ります。
「みんなが働いている時間に、自分は自由だ」
これは、単に仕事をサボっているのとは違います。自分の人生の主導権を、組織から自分の手に取り戻した証なのです。
「先生」と呼ばれる新しい居場所
Kindle出版やブログを通じて情報を発信していると、読者から感謝のメールが届くことがあります。
「鈴木さんの本のおかげで、経理の不安がなくなりました」
「公務員を辞める勇気が出ました」
現役時代、住民対応で感謝されることは稀でした。むしろ、苦情を言われることの方が多かったかもしれません。しかし今は、自分の知識が誰かの役に立ち、感謝され、時には「先生」と呼ばれることさえあります。
組織の看板ではなく、私という人間そのものを評価してもらえる喜び。これは、再雇用で窓際席に座っていては、決して味わえない充足感です。
定年までの「残り2年」でやるべきこと
逃げ切るのではなく、助走をつける
もしあなたが現在58歳で、私と同じように再雇用への不安を感じているなら、今すぐに行動を始めてください。定年までの残り2年間は、ただ「逃げ切る」ための時間ではありません。次の人生への「助走期間」です。
私が具体的に提案するアクションプランは以下の通りです。
- 「隠れ資産」の棚卸し
自分がこれまで担当してきた業務を書き出してください。その中で「人に教えられること」「新人がつまづくポイント」をリストアップします。それが将来のコンテンツになります。 - SNSでの発信練習(匿名でOK)
いきなり本を書くのはハードルが高いなら、X(旧Twitter)やnoteで、公務員としての知見や日々の気づきを発信し始めてください。もちろん、守秘義務には配慮し、匿名で。「文章を書いて反応をもらう」という感覚を養うことが目的です。 - お金のシミュレーション
先ほど述べた住民税や社会保険料の計算、そして年金見込額の確認。「ねんきん定期便」を見るだけでなく、実際に電卓を叩いて、月々のキャッシュフローを表にしてみてください。恐怖が「対策可能な課題」に変わります。
最後に:名刺は紙切れ、経験は財産
退職した日、シュレッダーにかけた大量の名刺。あれは単なる紙切れでした。
しかし、あなたの中に蓄積された30年以上の経験、乗り越えてきた修羅場、磨いてきた事務処理能力。これらは誰にも奪えない、あなただけの財産です。
再雇用にしがみついて、その財産を安売りしないでください。
組織の看板がなくても、あなたは十分に戦えます。そしてその先には、平日昼間のツーリングのような、何にも縛られない自由な日々が待っています。
「元公務員」という肩書きは、終わりではなく、新しいブランドの始まりです。
勇気を持って、一歩を踏み出してみませんか。
あの静かな湖畔の景色を、あなたにもぜひ見てほしいのです。


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