定年退職の日が近づくにつれ、多くの同僚が当たり前のように再雇用の書類に判を押していく。そんな光景を横目に、「本当にこれでいいのか」と自問自答しているあなたがいます。給与は現役時代の半分以下、仕事内容は雑用か新人と同じ、かつての部下が上司になる環境。それでも「安定」のために、心を殺して判を押すべきなのか。それとも、再雇用を断り、未知の世界へ飛び出すべきなのか。その選択に迷い、手が震えるのは当然のことです。
私自身、定年退職するときに悩んだ結果、再雇用というレールから降りる決断をしました。その時必要だったのは、無鉄砲な勢いではありません。必要なのは、漠然とした不安を消し去るための「正しい知識」と「稼ぐための地図」でした。再雇用を断る勇気は、精神論ではなく、準備から生まれます。この記事では、組織に頼らず自分の力で豊かさを勝ち取るために、私が実践してきた「自分年金」の作り方と、自由なセカンドライフの現実をお伝えします。あなたの迷いを断ち切る一助となれば幸いです。
なぜ「再雇用を断る」ことにこれほど勇気が必要なのか
多くの人が再雇用の提示を前にして足踏みをしてしまうのは、決してあなたが臆病だからではありません。長年、組織という大きな船に乗っていた私たちにとって、そこから降りて小舟で漕ぎ出すことは、本能的に恐怖を感じる行為だからです。まずは、その恐怖の正体を冷静に見つめ直してみましょう。

給与半減でもしがみつく?「安定」という名の呪縛
再雇用制度の現実はシビアです。多くの企業や官公庁では、再雇用後の給与が現役時代の5割から6割程度に設定されています。ボーナスが出ない、あるいは寸志程度になることも珍しくありません。それでも多くの人がこの条件を飲むのは、「毎月決まった日に給料が振り込まれる」というシステムへの依存心があるからです。
私たちは40年近く、自分の時間を切り売りして対価を得る生活を続けてきました。そのため、「組織に所属していない=収入がゼロになる」という極端な思考に陥りがちです。この「所属していないと生きていけない」という思い込みこそが、再雇用を断る勇気を削ぐ最大の呪縛です。しかし、冷静に考えてみてください。週5日、フルタイムに近い拘束を受けながら、モチベーションを維持できない仕事で寿命をすり減らすことが、本当に「安定」と呼べるのでしょうか。それは思考停止という名の、緩やかな衰退かもしれません。
かつての部下が上司になる屈辱とストレスの正体
金銭面以上に精神を蝕むのが、人間関係の逆転現象です。昨日まで自分が指導していた部下が、今日からは自分の評価者になります。もちろん、割り切って働ける人もいるでしょう。しかし、長年責任あるポストで仕事をしてきた人ほど、この環境の変化は強烈なストレスとなります。
「あの人、昔は部長だったのにね」という周囲の視線、自分の経験則が「老害」扱いされる疎外感。これらに耐えながら、現役時代の半分の給料で働く。これこそが、再雇用を選んだ後に待ち受けているリアルな日常です。私が再雇用を辞めた大きな理由の一つもここにあります。組織のしがらみや不合理な人間関係に、これ以上自分の人生の貴重な時間を捧げたくない。そう強く願ったとき、再雇用という選択肢は私の中で消滅しました。断る勇気が出ないときは、再雇用を選んだ場合の「5年後の自分の顔」を想像してみてください。そこに笑顔はあるでしょうか。
勇気が出ない最大の原因「お金の不安」を会計視点で因数分解する
再雇用を断る勇気が出ない最大の理由は、やはり「お金」です。しかし、その不安は「なんとなく足りなくなる気がする」という漠然としたものではないでしょうか。元公務員の会計実務担当として断言しますが、不安の正体は「見えないこと」です。数字にして可視化すれば、対策が見えてきます。
漠然とした不安を数字に変える「収支シミュレーション」
まず行うべきは、恐怖の数値化です。年金受給開始までの空白期間、そして受給開始後の収支を具体的に計算します。ここで重要なのは、現役時代の生活水準をそのままスライドさせないこと、そして過度な節約を前提にしないことです。
- 固定費の洗い出し: 住宅ローン、保険、通信費、車両費。
- 変動費の想定: 食費、光熱費、そして一番大切な「遊ぶためのお金」。
- 資産の棚卸し: 預貯金、退職金、投資信託などの金融資産。
これらをエクセルや家計簿アプリで一覧にしたとき、多くの人は「意外となんとかなる」あるいは「月々あと5万円あれば足りる」という具体的な数字に行き着きます。私が退職を決断できたのも、この計算をした結果、「再雇用でフルタイム労働をして稼がなくても、自分で月6万円以上稼げば十分に回る」という事実が見えたからです。「生活できないかもしれない」というお化けにおびえるのではなく、電卓を叩いて現実を直視すること。これが勇気の第一歩です。
退職金と年金の空白期間を埋める「守りの資産防衛術」
再雇用を断る場合、最もケアすべきは60歳から65歳までの年金空白期間です。ここを退職金の取り崩しだけで乗り切ろうとすると、精神衛生上よくありません。資産が目減りしていく通帳を見るのは、想像以上にストレスだからです。
ここで役立つのが、会計実務の知識です。例えば、退職後の健康保険は「任意継続」が得か「国民健康保険」が得か、事前にシミュレーションしておくこと。また、個人事業主として開業すれば、青色申告控除や経費計上によって、税金や社会保険料を適正にコントロールできます。さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済などを活用し、自分の身を守るための制度をフル活用します。
国や組織は、辞めていく人間にこうした「損をしない知識」を教えてはくれません。しかし、自分で学び、武装することで、組織という後ろ盾がなくても十分に自分を守れるようになります。この「知恵」こそが、再雇用を断るための強固な防具となるのです。
再雇用なしでも豊かに暮らすための「攻めの稼ぎ方」
守りを固めたら、次は攻めです。再雇用を断るための最大の勇気は、「組織に頼らずとも、自分で稼ぐ手段を持っている」という自信から生まれます。私が提唱する「元公務員流」の稼ぎ方は、怪しい投資や肉体労働ではありません。これまでの人生経験を資産に変える方法です。
組織の看板を捨て、個人の経験を「資産」に変える
定年まで勤め上げたあなたには、膨大な知識と経験が蓄積されています。それは、業務上の専門知識だけでなく、部下の育成経験、クレーム対応、組織運営のノウハウ、あるいは趣味で極めた分野など多岐にわたります。これらはすべて、誰かにとって価値ある「情報」です。
再雇用で働くということは、これらの貴重な経験を、安価な労働力として組織に買い叩かれることを意味します。しかし、インターネットを使えば、あなたの経験を直接必要としている人に届けることができます。組織の看板を外し、個人として世の中に価値を提供する。これこそが、人生100年時代における正しい「稼ぎ方」です。
元手ゼロ・在庫なし。「書くスキル」で作る自分年金
具体的に私が実践し、推奨しているのが「Kindle電子出版」と「専門特化ブログ」です。公務員や会社員として長年働いてきた私たちには、様々な書類作成で培った「書くスキル」があります。これをビジネスに向け変えるのです。
Kindle出版の魅力は、初期費用が完全にゼロであること、そして一度出版すればAmazonが24時間365日、あなたに代わって販売し続けてくれることです。これは労働収入ではなく、印税という名の「権利収入」です。例えば、あなたの失敗談や克服した経験を一冊の本にまとめる。それが月に数千円、数万円の収益を生み続けます。本が増えれば、その額は積み上がっていきます。これが私の言う「自分年金」です。
ブログも同様です。特定のジャンルに特化した情報を発信することで、広告収入を得ることができます。これらは在庫を抱えるリスクもなければ、店舗を借りる必要もありません。パソコン一台あれば、自宅の書斎が、あるいはお気に入りのカフェが仕事場になります。再雇用で嫌々働く時間の一部を、このコンテンツ作りに充ててみてください。半年後、1年後には、給与明細に頼らない自信が芽生えているはずです。
組織を出たからこそ味わえる「真の自由」と孤独の乗り越え方
「稼ぐ」ことは手段であり、目的ではありません。再雇用を断る真の目的は、自分の人生を取り戻すことです。組織のしがらみから解放された先には、想像以上に鮮やかな世界が広がっています。
平日昼間のツーリングで見えた「縮小均衡」ではない老後
私が再雇用を断って本当によかったと感じる瞬間。それは、平日の晴れた日に愛車のバイクでツーリングに出かける時です。道路は空いており、人気の観光地も静かです。現役時代、週末の渋滞に巻き込まれながら疲労困憊で遊んでいたのが嘘のような快適さです。
「年金が不安だから」と家に閉じこもり、電気代を気にして暮らす「縮小均衡」の老後は、私が望む姿ではありませんでした。自分で稼ぐスキルを持っているからこそ、ガソリン代や旅費を惜しまず、全力で遊ぶことができます。そして、その遊びの体験をブログや書籍のネタにして、また収益を生む。この「稼いで遊ぶ」循環こそが、攻めのセカンドライフの醍醐味です。組織に時間を拘束されていたら、決して味わえない充実感です。
孤独は「孤立」ではない。新しい社会との繋がり方
再雇用を断る際に懸念される「孤独」についても触れておきましょう。確かに、組織を離れれば毎日の雑談相手はいなくなります。しかし、それは「煩わしい人間関係」が消えたことの裏返しでもあります。
組織を離れた後の孤独は、惨めなものではありません。むしろ、自分自身と向き合い、本当に付き合いたい人とだけ付き合うための「選別された時間」です。さらに、電子書籍やブログを通じて読者からの反応があったり、SNSを通じて同じ趣味や志を持つ新しい仲間と繋がったりすることで、組織時代よりも深く、健全な人間関係を築くことができます。
会社の名刺で繋がっていた関係は、退職とともに消えます。しかし、個人の魅力や発信で繋がった関係は、一生モノです。再雇用という狭い世界に留まるよりも、インターネットを通じて広い世界と繋がる方が、精神的な孤立を防ぐことができるのです。
決断の時。断る勇気は「未来への期待」から生まれる
再雇用の書類提出期限が迫っているあなたへ。ここまで読んでいただき、少しでも「自分もできるかもしれない」という灯火が心に灯ったなら、その直感を信じてください。
他人の目線ではなく、自分の心のハンドルを握れ
「今までお世話になった会社に悪い」「みんな働いているのに自分だけ遊んでいるようで気が引ける」。そんな真面目なあなたが抱く罪悪感は、今の時代、必要ありません。組織はあなたの老後の幸せまで保証してはくれません。あなたの人生の責任を取れるのは、あなただけです。
「自分の人生のハンドルは自分で握る」。そう決めた瞬間から、景色は変わります。誰かにお伺いを立てる必要も、理不尽な命令に従う必要もありません。すべての決定権が自分にあるという清々しさは、何物にも代えがたいものです。
60代は余生ではない。攻めのセカンドライフの始まり
人生100年時代において、60代はもはや「余生」ではありません。気力も体力も知力も充実した、黄金期の始まりです。この貴重な10年、20年を、消化試合のように過ごすのか、それとも新しいビジネスや趣味に挑戦し、エキサイティングに過ごすのか。再雇用を断るということは、後者の生き方を選ぶという宣言です。
もちろん、最初は不安もあるでしょう。しかし、会計の知識で守りを固め、書くスキルで攻めの資産を作れば、恐れることはありません。私たちには、長年の勤務で培った忍耐力と実務能力があります。これらは、個人事業主として成功するための強力な武器です。
さあ、勇気を出して、再雇用の書類を机に置きましょう。そして、新しい冒険の地図を広げてください。組織に頼らない、自由で豊かな「自分年金」ライフが、あなたを待っています。

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